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金沢家庭裁判所 昭和62年(少)836号 決定 1987年8月01日

少年 K・F(昭42.7.3生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

少年院に収容する期間を昭和62年8月12日から1年間と定める。

理由

1  非行事実

少年は、昭和62年6月5日当庁において窃盗、虞犯保護事件により金沢保護観察所の保護観察に付され、現に保護観察中のものであるが、上記決定当日保護観察所において係官から担当保護司宅へ訪問すべき旨の指示を受けたのにこれに従わず、不良交友関係を通じて翌6日の深夜、暴走族の友人の自動車に同乗して集団暴走する共同危険行為に参加し、その後も無断外泊を重ねシンナー吸入の常習者らとその吸入をなしていたもので、そのまま放置すれば、将来罪を犯す虞れがあるものである。

2  適条

少年法3条1項3号イ、ハ、ニ

3  処遇理由

少年は、現在上記の保護観察中であり、その間昭和62年7月3日に20才に達したものであるが、金沢保護観察所長から昭和62年7月3日上記虞犯事由に基づき犯罪者予防更正法42条1項により当裁判所に通告されたものである。

少年は、(1)昭和61年6月30日当庁において、窃盗、同未遂保護事件により中等少年院(一般短期処遇)送致の決定を受け、同年11月25日仮退院し、(2)その後の窃盗、虞犯保護事件により当庁に係属し、在宅試験観察を経たのち、昭和62年6月5日上記の保護観察に付されたものであるが、少年院を仮退院後、試験観察の期間を除いては、保護観察官や担当保護司の指導及び保護者(母)の懸命の忠告にも全く従わず、いわゆるシンナー仲間らとの不良交友を通じてシンナー吸入を重ね、定職に就くこともなく従食していたものである。そして、その性格は、意思が弱く、友人関係に依存的で誘惑に簡単にのつて軽率な行動をとり易く、また困難な局面に直面するとこれを避け、逃避的生活態度をとりがちである。なお、少年のシンナー乱用は、昭和58年5月の高校中退ころから長期間にわたつていわば習慣化しており、自力で離脱することは殆んど不可能な状態にある。

他方、両親は昭和56年に離婚しているところ、保護者である母は、自己の指導の限界を超えるとして収容保護を望んでいる状態であり、少年に対する適切な指導監督を期待し難い(なお、父は覚せい剤取締法違反罪により受刑中である)。

以上の事実によると、保護観察によるその改善は困難であるといわざるを得ず、施設収容による矯正教育により、シンナー嗜癖からの離脱並びに生活態度の改善及び勤労意欲の喚起を図るのが相当であると解する。そして、上記の事実によれば、特別少年院に主文掲記の期間収容するのが適当であると考える。

よつて、犯罪者予防更生法42条、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 新崎長政)

参考 通告書

通告書

昭和62年7月3日

金沢家庭裁判所 支部 殿

金沢保護観察所長 ○○

下記の者は、少年法第24条第1項第1号の保護処分により、当保護観察所において保護観察中のところ、新たに同法第3条第1項第3号に掲げる事由があると認められるので、犯罪者予防更生法第42条第1項の規定により通告する。

氏名

年齢

K・F

昭和42年7月3日生

本籍

金沢市○○町×番地×

住居

同上

保護者

氏名

年齢

K・H子

大・<昭>和10年3月30日生

住居

金沢市○○町×番地×

本人の職業

無職

保護者の職業

スナック店員

決定裁判所

金沢家庭裁判所 支部

決定の日

昭和62年6月5日

保護観察の経過及び成績の推移

別記一のとおり

通告の理由

別記二のとおり

必要とする保護処分及びその期間

少年院送致相当(期間1年間)

参考事項

添付書類

1)本人に対する質問調書 1通

2)母に対する質問調書 1通

3)処遇計画票写 1通

別記一

保護観察の経過及び成績の推移

年月日

経過

62.&#160;6.&#160;5

仮退院中の再非行(窃盗、ぐ犯)により、保護観察決定。母同伴にて当庁へ出頭。

係官から保護観察についての説示をうけ、期間中守るべき遵守事項について誓約する。

開始にあたり別添処遇計画を樹て、担当者として○○保護司を指名。本件は問題点が多いことから分類処遇A事件に指定。

62.&#160;6.18

6月6日の暴走族による警察官ひき逃げ死亡事件に関連し、本人も暴走に加わっていたことが判明したので、6月19日指示にて出頭を求めた。

62.&#160;6.19

本人出頭。質問調書作成により次の事が判明した。

<1>昭62.6.6Aの運転する車(同乗者B、C)に同乗し、暴走に参加したが、本件以前の昭62.5.23並びに昭62.5.30にも深夜にわたり暴走に参加していたこと。

<2>昭62.6.8から昭62.6.13までの間暴走事件に関しての検挙を恐れ、身を隱す目的で3名の友人宅を転々とし、無断外泊を重ねた挙句、検挙され、その後○○警察署において在宅取調を受けていること。

<3>昭62.6.17金沢市○×町のD方アパートにおいて、D、Bとともにシンナーを吸引し、○○警察署員に検挙されたこと。

62.&#160;6.23

母に対し、昭62.6.29指定にて来庁依頼書送付。

62.&#160;6.29

母来庁、関係人調書を作成

<1>本人は、昭62.6.22昭和サービスを退職し、失職している。

<2>生活態度が改善されず、母としては手を焼いており、裁判所の判断に任せたい旨表明している。

62.&#160;7.&#160;2

湖南学院仮退院(昭61.11.25)による2号観察の保護観察期間満了。

成績は昭62.9「不良」

別記二

通告の理由

保護観察の経過及び成績の推移並びに本人、関係人に対する質問調書からみると、本人は、

1) 昭和62年6月5日保護観察に付され、当庁において所定の手続きを受けた後、直ちに担当者のもとへ訪問するよう指示したにもかかわらげ、実行しなかったばかりか、以前から交友のあったA、B等との不良交友から翌6月6日深夜暴走族「○○」の暴走に参加し、○○警察署員に検挙され、(少年法第3条第1号第3号ハ前段該当)

2) 昭和62年6月8日から同月13日まで、暴走行為による検挙を免れる目的で、自宅へ戻らず友人宅を転々として無断外泊を重ね、(少年法第3条第1項第3号ロ該当)

3) 前記暴走行為により、○○警察署において取調べを受けている昭和62年6月17日Bやシンナー常習者Dとシンナーを吸引し、○○警察署に再び検挙され、(少年法第3条第1項3号ハ前段およびニ該当)

4) 昭和62年6月22日有限会社○○を退職後、全く働く意欲をなくし、再三にわたる母の就労要請にも耳をかさず、少年院へやられても仕方がないと腹を決めている(少年法第3条第1項3号イ該当)

ものであり、本件保護観察決定前に先立つ金沢家庭裁判所○○調査官の試験観察中である昭和62年5月23日並びに昭和62年5月30日にも暴走行為に参加しており、何らその行状を改めることなく、ますます恣意放縦な生活を送っている現状にあっては、保護者の監護能力にも多くを期待できず、その性格や環境に照して、近い将来再び、暴走行為やシンナー吸引をくり返す虞れがある。

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